「鬼心配症のコバトンと脳のズレた魔法のメガネ」
コバトンは誰よりも慎重で、愛すべき鬼心配症でした。
ある日、彼女がこんな話をしてくれました。友だちと車でドライブ中、海老名サービスエリアに立ち寄ったときに突然、「マンションのドアを閉めたかどうか心配になった」と言い出し、友だちに無理を言って引き返してもらったそうです。戻ってみれば、ドアはちゃんと閉まっていたのですが、その時の彼女は「もし閉まってなかったら…」という不安にどうしても抗えなかったと言います。
「今でもその鬼心配症は治らないの」と笑いながら語った彼女。近頃は、家を出る前にドアや窓、ガスコンロをiPhoneのビデオで記録するようにしているのだとか。「こうしておけば、あとで『大丈夫だったかな?』って心配しないで済むから」──その言葉には、自分の性格を受け入れ、工夫を重ねていく彼女らしい柔らかさが感じられました。
脳の魔法のメガネ、未来をズラす不思議な視点
このエピソードを思い出すたびに、脳の「未来を映し出す魔法のメガネ」の話を考えてしまいます。
たとえば、上司が少し渋い顔をしただけで「叱られるかも…」と不安になるのも、このメガネが原因です。脳は未来を予測し、リスクを回避しようとしているのです。でも、この魔法のメガネには大きな問題があります。それは、「ズレやすい」ということ。
私自身もそのズレを感じた経験があります。たとえば、ある大事なプレゼンの前夜。「失敗したらどうしよう」「途中で詰まったらどうなるんだ」と頭の中で最悪のシナリオが駆け巡り、よく眠れませんでした。でも、実際に迎えた当日、想像とは裏腹にすべてがスムーズに進み、同僚から「説得力があったよ」と言われるほどの出来栄えだったのです。あの夜の不安は何だったのかと、いまだに笑ってしまいます。
実際、心理学では「不安の8割は現実には起こらない」と言われています。それでも脳は「最悪のシナリオ」を描き続けます。なぜなら、脳の本能は「生き延びること」。未来を予測して危険を避ける仕組みが、私たちを守ろうとしてくれているのです。
鬼心配症の強み
コバトンは、そんな「ズレた魔法のメガネ」を持ちながらも、それを悪いことだとは思っていないようでした。ある日、彼女がこんなことを言ったのです。
「私って、鬼心配症だけど、そういうのも悪くないよ。だって、みんなが気づかない小さなことにもちゃんと気づけるし、それで誰かの役に立てることもあるから。」
たとえば、友だちの引っ越しの手伝いをしたとき。ほかの人が忘れてしまった細かい荷物や、必要な道具をすぐに見つけてあげたのも、彼女の鬼心配症ゆえの「先を読む力」だったのです。もちろん、その慎重さが時には彼女自身を疲れさせることもあったでしょう。それでも、彼女は自分の心配性をただの「弱点」として終わらせず、その中にある強みをちゃんと見つけていました。
結び:ズレたメガネとうまく付き合うために
脳が生み出す不安の多くは誤作動だと言われています。それでも、不安そのものを否定する必要はありません。不安が湧き上がったら、「これは魔法のメガネがズレているだけかも」と考えるだけで、気持ちが少し楽になることもあります。
そして、もし不安がどうしても手放せないときは、コバトンのように工夫を重ねてみるのもいいかもしれません。ドアの記録をビデオに残すように、自分に合った方法で不安を管理していく。それは、魔法のメガネを味方にするための小さな一歩です。
鬼心配症なコバトンが見せてくれたのは、ただ未来を恐れるだけでなく、その先にある可能性や自分の強みを見つけることの大切さでした。そして、彼女のように「これも悪くない」と笑って言える日が、私にもあなたにも来るのではないでしょうか。
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